突然の悲しみ

「そうそう!昨日も浩介とその話題で1時間は語り合ったわ!」

 

 

「そんなに……?」

 

 

「聡介ってペンネームは本名じゃないし、メディアにも一切出ないから聡介か聡介に近い人じゃないと聡介の仕事を知らないのよ」

 

 

「なんでそんなに隠してるんですか?」

 

 

 

 

 

 

頭によぎった質問をしてみる。

 

 

 

 

だって、小説家でこんな立派な

 

マンションに住めるって

 

きっとすごいんじゃないかと思うし

 

そんなにすごいって事は

 

誇れることなんじゃないかと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

芥山賞を取ったとか、小説が映画化っていうくらいに人気みたいだし。

 

 

 

 

 

 

「聡介って素直じゃないし、あんまり何も言わないじゃない?」

 

 

「あ、はい。まぁそうですよね。でもこっちに引越したくらいから、前よりしゃべってくれるようになりました」

 

 

「そうかも!!それはシロちゃんに相当心許してるからだなんだけど、聡介って相当仲良くならないと何も言わないでしょ。でも、だからって何も考えていない訳じゃないのよ。色んな事を考えてたり、感じてたりするんだけどそれを素直に表に出せないの」
「だからね、そんな気持ちを小説にして書いているんじゃないかな。これは私と浩介の勝手な予想だけど、そうだと思うよ。だからシロちゃんに見せるのは恥ずかしいのよー。だってホラーじゃないし」

 

 

「えっ!!そうなんですか!?!?」

 

 

 

 

そーちゃんに騙されていた事に

 

ちょっとヒドイなと思うけど

 

嘘を吐きたい気持ちも

 

それは何となく分かる気もする。

 

 

 

 

 

 

 

頭の中を人に覗かれるほど

 

恥ずかしい事なんてないもんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

二人でそーちゃんの話で盛り上がってると

 

普段、ほとんど鳴る事のない私の携帯が震えた。

 

 

 

 

 

 

画面をのぞき込めば

 

着信の相手はそーちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そーちゃんだ…」

 

 

「どうしたんだろうね?出たら?」

 

 

「あっ、はい。では失礼します」

 

 

 

 

 

 

和香さんに断り

 

震え続ける携帯画面をタップした。

 

 

 

 

 

 

「もしもし?どーしたの?」

 

 

「下に戻って来い」

 

 

 

 

 

初めて聞く電話越しのそーちゃんの声は

 

いつもより低く聞こえて

 

なんだか新鮮だ。
「どうしたの?まだ仕事中だよ」

 

 

 

 

休憩中ではあるけれど…

 

 

 

まだ夜ご飯の支度をしてないし。

 

 

 

 

 

 

 

「和香に替われ」

 

 

「う、うん。分かった」

 

 

 

 

 

 

なんだかいつもより余裕のない声に

 

私も意味もなく焦ってしまい

 

急いで和香さんに電話を渡した。

 

 

 

 

 

 

「はいはーい」

 

 

 

 

 

始めは笑顔で電話を受けた和香さんの表情が

 

段々と曇ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

「うん…うん…分かった。じゃあね」

 

 

 

 

 

 

静かに通話を終了した和香さんは

 

ゆっくりと私に携帯を差し出し

 

 

 

 

 

 

「シロちゃん、今日はもう終わりで大丈夫」

 

 

「え?何かあったんですか?」

 

 

 

 

 

和香さんのぎこちない笑顔に

 

不安だけが募っていく。
「聡介がいるからね。シロちゃん、大丈夫だからね」

 

 

 

 

 

私の両手を優しく握り

 

これから何か悪い事でも

 

起きるかのような雰囲気を漂わせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

無理に作った笑顔が

 

どうしょうもなく私を不安にさせて

 

和香さんに詰め寄ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

「何があったんですか?和香さん!!そーちゃんに何かあったんですか!?」

 

 

「ううん」

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと顔を横に振る和香さんに

 

そーちゃんに何かあったわけではないと分かり

 

安心するけど、それでも何か悪い事が

 

私の知らない所で起きている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シロちゃん、今すぐ下に戻って聡介と話をして?それでシロちゃんが何を選んでも私たちはシロちゃんの味方だから、ね」

 

 

 

 

私が口を出す暇がないくらいに

 

早口で和香さんに諭され

 

何が起きてるのか分からないまま

 

嫌な予感と、これから起こる事の

 

恐怖だけを胸に抱えて

 

下の部屋に戻りそーちゃんの話を聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まっすぐに私を見据えて

 

重い口を開いて出てきた言葉は

 

信じられない程、残酷で。
「さっき、浩介から連絡が来た。お前の姉ちゃんが危篤らしい。会うか会わないかは自分で選べ」

 

 

 

 

 

 

信じられなくて、信じたくなくて

 

息が止まりそうになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

そーちゃんに守られてのほほんと

 

生きている私の知らないところで

 

花梨が一人、戦っていたんだろうと想像すれば

 

張り割かれるように胸が苦しくて

 

心配と罪悪感しか込み上げてこない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ白になりそうな頭を

 

どうにかして繋ぎとめようと

 

何か口に出そうとしても

 

言葉が詰まって出てこない。

 

 

 

 

 

 

 

「樹里」

 

 

 

 

 

 

その声に導かれるように顔を上げれば

 

悲痛そうに顔を歪めている。

 

 

 

 

 

 

 

「お前は何も悪くねえよ。自分を責めんな」

 

 

「………」

 

 

「時間ねえからとりあえず向かう。車でどうすれば決めればいい」

 

 

 

 

 

 

その場に突っ立ったまま

 

少しでも動いたら膝から崩れ落ちそうな

 

私の手を取り、そーちゃんの運転する車に乗り込んだ。