こんな世の中のキレイなモノ

「あー、さっきごめんね。あんなにみっともなく泣いちゃって」

 

 

「別にいい。俺の前じゃ泣かねえと思ってたから」

 

 

 

 

 

 

そんな風に思ってたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

私は一般的に見たら泣かない方だと思う。

 

 

 

 

 

 

泣いたって何も現実が変わらないのは分かってるから。

 

 

 

 

 

気持ちがスッキリする事もあるかもしれないけど、

 

そんなのは誰かの前でする事でもなくて

 

一人の時に、ひっそりと泣いて

 

スッキリさせればいいと思ってたけど

 

そうじゃなかった。

 

 

 

 

 

 

そんなのはただの強がりで、言い訳で。

 

 

 

 

 

 

 

 

現実は、私の涙を受け止めてくれる人なんていなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横に座るそーちゃんに視線を向ければ、

 

シートに両手を付いて、夜空を見上げている。

 

 

 

 

「前に泣いたじゃん。和香さんが優しくしてくれて嬉しくて。あとはこの前一緒に南極○語見て号泣した覚えあるよ」

 

 

「あれは違う涙だろ」

 

 

「まぁ、そうだね。あの時は嬉し涙と感動の涙だね。」

 

 

 

 

 

あの痴漢にあった日や

 

映画を見た日の事を思い出していると

 

違う記憶が蘇ってきた。
「あっ!!首絞められた時とかキスされた時に涙が少し出た気がするよ」

 

 

 

 

 

責めるつもりはなかったのに

 

そーちゃんが一瞬にして

 

表情を曇らせてしまい

 

失言をしたことに気が付く。

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんっ!!そんなつもりで言ったんじゃなくてさ…」

 

 

「あの時、お前は大して泣かなかったよ。でももうあんな事しねえ。悪かった」

 

 

 

 

 

申し訳なさそうに

 

眉をさげて私に詫びるそーちゃんに

 

いたたまれなくなってくる。

 

 

 

 

 

 

 

「全然気にしてないし!!そーちゃんも気にしないでよ!!」

 

 

「…あぁ」

 

 

「でもさ、怒ってるとか気にしてるとかじゃないんだけど、分からない事があって」

 

 

「なんだ」

 

 

「そーちゃんは不器用だけど、すごい優しいじゃない?あの時どうして首絞めたの?」

 

 

「……あの時は、お前の事なんてどうでもよかったから」

 

 

「うん。じゃあなんで私を買うなんて言ってくれたの?何もするつもり始めからなかったんでしょ?」

 

 

「俺が断った瞬間に、次に売る奴を探しただろ?あの時は、お前の事情なんて知らなかったし。ただお前くらいの容姿だったら売春なんてしねえでも生きて行けると思ったから」

 

 

「あんまり意味が分からないや」
頭上では相変わらず

 

流れ星が輝いては儚く消えていっている。

 

 

 

 

 

 

 

「だから、お前が俺に断られても他のヤツに売ってたんじゃ俺が断った意味ねえだろ?それにどうしてどうでもいい人間に一つ一つ口で説明して、売春するな、なんて説得してやらなきゃいけねえんだよ。それだったら、身体に恐怖を覚えさせた方が早いじゃねえか」

 

 

「……もうしないって事は、私はそーちゃんにとってどうでもいい人間じゃないって思っていい?」

 

 

「あぁ。だからもうあんな風にお前を傷付けるような事はしねえ」

 

 

私を見る事なく、頭上に輝く夜空に言葉を落とすそーちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

その低くて心地良い声は流れ星のように

 

落とされては暗闇に溶けていく。

 

 

 

 

 

 

 

「私、そーちゃんに会えたことがこの人生で一番の良かったことかも」

 

 

 

 

出会ってからまだ4か月ちょっとしか経っていないけど

 

心の底からこの出会いに感謝している。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そーちゃんはさ、どうして不良になったの?」

 

 

 

 

 

 

どうでも良い人間じゃないって

 

認めてもらえて嬉しかったのか

 

今までの私だったら

 

聞くような事がなかった事を聞いている。

 

 

 

 

 

 

 

誰かに踏み込めば、その分私もさらけ出さないといけないから。
「見下されたくなかったから」

 

 

「そーちゃんが見下されるの?」

 

 

 

 

 

 

私の質問に、ボソリと言葉を零したそーちゃん。

 

 

 

 

 

 

こんな世の中のキレイなモノを

 

全て詰め込みましたっていうくらい

 

顔が整ってて、持て余す程の長い手足で、

 

性格だって不器用だけど優しくて。

 

 

 

 

 

 

こんな完璧な人を見下す人なんている?

 

 

 

 

 

 

 

「施設で育ってるだけで同情されたりとか、馬鹿にされたりするんだよ」

 

 

「……そうなんだ」

 

 

「あの頃は、粋がってたっつーのもあるけどよ、施設に住んでる本城聡介じゃなくて喧嘩が強い本城聡介って思われたかったんだろうな」

 

 

「……何となく分かる気がする」

 

 

「だろうな。お前も親に捨てられた可哀想なヤツだと思われたくなくて、いつも明るくて悩みなんてねえように振る舞ってるしな」

 

 

「あはは。分かった?」

 

 

「それくれえ分かるだろ」

 

 

 

 

 

 

そーちゃんがフッと余裕顔で笑うと私も嬉しくなる。

 

 

 

 

 

 

「そーちゃんは施設で育ったのが嫌だった?」