過去

「ん?あぁ、どうだろうな。嫌な事もあったけど、結論でいったら産まれたばっかの子供を捨てるような親に育てられなくて良かったんじゃね。誕生日も捨てられた日だし。ロクな親じゃねえだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

そーちゃんの生い立ちを初めて聞いて

 

 

どんな表情でどんな返事を

 

返したらいいのか分からなくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

0歳の誕生日に親に捨てられたそーちゃんと

 

 

 

17歳の誕生日に親から逃げてきた私。

 

 

 

 

 

 

 

似ているようだけど同じじゃなくて。

 

 

 

 

 

違うようだけど、似ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「んな、顔すんじゃねえよ」

 

 

 

 

 

 

 

ぶっきらぼうな言葉だけど

 

私の頭をガシガシと撫でてくれる手は優しい。
「それによ、本城聡太郎っつーのは捨てられた時にすでについていた名前で、聡介っつーのは俺もみんなと一緒が良くて自分でつけた。あの園で名前付けてもらった男はみんな“介”が付くからよ。」

 

 

「名前にそんな秘密があったんだね」

 

 

 

 

 

 

 

そーちゃんが何事もないように話すから

 

その空気を壊したくなくて

 

私も普通の会話のように返事をする。

 

 

 

 

 

 

 

私には分からないだけなのかもしれないけど

 

話をしているそーちゃんの瞳に

 

悲しみの色は浮かんでなくて

 

気持ちの整理が出来てるのかななんて

 

勝手に思ったりしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「昨日、アヤに電話した」

 

 

 

 

 

ポツリと呟いた声に驚いて

 

夜空からそーちゃんに視線を移す。

 

 

 

 

 

 

 

「お前がすげえ気にしてただろ」

 

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

入籍までして、後からアヤさんの事を聞くなんて

 

ズルいと思って聞けなかったけど

 

ずっとずっと気になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「アイツ、すげえ幸せそうだった」

 

 

「うん」

 

 

「すげえ嬉しかった」
「そうなの?」

 

 

「あぁ。別れてもアイツが特別なのは変わんねえ。幸せでいて欲しいと思ってる」

 

 

「それってまだ好きだからそう思うって事?」

 

 

「それはねえな。浩介や和香に対する気持ちと同じだ。アヤも一緒に育ってきた家族だから」

 

 

「そっか。アヤさんはそーちゃんの家族なんだね」

 

 

 

 

 

アヤさんを語るそーちゃんは

 

柔らかくて穏やかな表情を浮かべている。

 

 

 

 

 

 

「まぁな。聞きてえ事あるなら聞け」

 

 

 

 

 

そんなに聞きたそうな顔をしているのだろうか。

 

 

 

もちろん、さっきから聞きたくてしょうがないんだけどさ。

 

 

 

 

 

 

「あの、答えたくなければ答えなくていいんだけど」

 

 

「あぁ」

 

 

「なんでそんなに大切なのに別れちゃったの?」

 

 

 

 

 

 

別れてからどれくらい時間が

 

経ってるのかは知らないけれど

 

何度も寝言で名前を呼ぶくらいなんだから

 

相当、好きだったんだと思う。

 

俺たちは家族だったけど、アイツが欲しかったのは家庭だったんだ」

 

 

「うん」

 

 

「俺と違って、普通の家庭で育ったアヤは親が事故にあって小5の時に施設に来たから、普通の家庭を知ってた。」

 

 

「うん」

 

 

「アイツは結婚して家庭を持つ事を望んでたけど、あの頃はまだ二十歳で小説で食っていけねえし、夜間工事のバイトでどうにか二人分の生活費を稼ぐぐれえしか出来なくて」

 

 

 

 

 

視線を私から頭上に移して

 

当時を思い出しているのか

 

自嘲気味な苦笑いを浮かべている。

 

 

 

 

 

 

「そうだったんだ」

 

 

「アヤは俺より4つ上だったから、俺には直接言わなくてもアイツがすげえ結婚したがってたのを知ってたんだ。」

 

 

「うん」

 

 

「で、小説を一年書いてダメだったらもう就職しようと思って、アヤに一年だけ待ってほしいって頼んで待っててもらったんだ。小説家になる事を諦めるのに葛藤はあったけど、それ以上にアヤを手放す事だけは考えられなかったから」

 

 

「うん」

 

 

「で、その一年はアヤとの時間もねえくらいに小説書いてたら、アヤに違う男が出来て別れた」

 

 

 

 

 

 

ポツリ、ポツリと過去を語っていく

 

そーちゃんの瞳に

 

切ない色が浮かんでくる。

 

「で、その時書いてた小説が賞を取って、すげえ売れたからアヤに会いに行ったら見たこともねえ笑顔で知らねえ男に笑ってた。俺が中2の時から8年付き合っても見る事出来なかった笑顔をソイツはさせててさ。」

 

 

「うん」

 

 

「暴力からアヤを守る力は付けたけど、アヤの笑顔を守ってやる力なんてどこにもねえんだなって、やっとその時に分かってアイツを諦めた。」

 

 

「そうだったんだね」

 

 

「まぁそれでもだせえ事に諦められてなかったんだろうな。諦めたつもりでもアイツの事ばっか考えてたし。でも、最近はアイツの事考える事もなくなって、昨日電話で話したら、お互いに過去の事になってた」

 

 

「そっか。じゃあアヤさんもそーちゃんの幸せを願ってるね」

 

 

 

 

 

 

頭上で眩く輝いている星たちも

 

そーちゃんの幸せを願ってるように見える。

 

 

 

 

 

「そうかもな」

 

 

 

 

 

そーちゃんは少し嬉しそうに

 

宙を仰いだ。

 

 

 

 

 

「だからお前がアヤを気にする必要はどこにもねえ」

 

 

「うん。教えてくれてありがとう」