サイン

帰ってからそーちゃんに一枚の書類を出し

 

“クリスマスプレゼントにここにサインして欲しい”とお願いした。

 

 

 

 

 

 

 

そのサインのおかげで手に入れた念願のスマホ。

 

 

 

 

 

 

そーちゃんが買ってくれるって言ったけど

 

丁寧にお断りして。

 

 

 

 

 

 

今はポケットの中で静かにたたずんでいるけど

 

手に入れた日は3時間にも渡って

 

ニヤニヤと見つめ続けてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

最後にはそーちゃんも呆れ果ててしまうくらいに

 

気持ち悪い行動をしてしまったのもつい最近の記憶。

 

 

 

 

 

さっきみんなとも番号を交換した。

 

 

 

 

 

 

お金があっても保護者の同意がなければ

 

買う事が出来なかったスマホ。

 

 

 

 

 

 

中学生になって周りのクラスメイトが番号交換をする中で

 

持ってない事で劣等感を感じ続けてたんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

人は人って言い聞かせながらも

 

いいなと思い続けていたスマホ。

 

 

 

 

 

 

 

それがそーちゃんのおかげで持つことができたんだから

 

これ以上のプレゼントなんて望むものなんてないんだよ。

 

「このケーキ美味しい。どこで買ったの?」

 

 

「あっ、これは作ったんです」

 

 

 

 

 

百合さんがケーキを口に運びながら

 

作ったケーキを褒めてくれるから

 

自分の顔が綻んでいくのが分かる。

 

 

 

 

 

 

 

「シロちゃん、本当に偉いね。さっき、和香ちゃんにも聞いたけど家事も完璧に出来るんでしょ?」

 

 

「いやいや、そんな完璧には程遠いいですよ」

 

 

 

 

 

 

まぁ、この年にしては家事は出来る方だと思う。

 

 

 

 

 

 

さすがに小学生から毎日家事をし続けて

 

そこで成長しなかったらそれはヤバイでしょう。

 

 

 

 

 

 

「マサからもちょっと聞いたんだけど、シロちゃんは偉いわ」

 

 

「偉い、ですか?」

 

 

「うん。すごいよ。だってまだ17歳でしょう?」

 

 

 

 

 

 

ケーキを口に運ぶフォークを置いて

 

柔らかい笑みを私に向けてくれる。

 

 

 

 

 

 

 

「私が17歳の時なんて、そりゃひどかったもん。私の実家も暴力団なんだけどね、そのせいで友達も出来ないし、一人で遊びにもいけないし、いっつもどうして私ばっかりがこんな目に合わなきゃいけないのってずっと思ってたもん」

 

「恥ずかしいけど、悲劇のヒロインにでもなったように世の中すべてを憎んでたんだ。こんな不幸な人間は世界中で私しかいないんだって。でもマサからシロちゃんの話を聞いて、もし私がシロちゃんだったら、完全に“なんで私だけこんな思いしなきゃいけないの!!”って怒り狂ってたと思うもん。」

 

 

 

 

 

フフ、と柔らかい笑みを浮かべながら

 

私を褒めてくれている。

 

 

 

 

 

 

自分を認めてくれる人が目の前にいるだけで

 

くすぐったい気持ちになりながらも

 

とても嬉しい。

 

 

 

 

 

 

「でも話に聞くシロちゃんはいつでも笑ってて、みんなに気遣いが出来て、目の前の問題から逃げないできちんと向き合って、私みたいに悲観する事もなくて、ちゃんと前を向いて、未来に向かって歩いてるんだもん。私はすごいと思うよ」

 

 

 

 

 

「ありがとうございます。でも私だって悲観的になる事ありますよ。こんなの嫌だって思ったことだって」

 

 

「そんなのは当たり前だよ。17歳なんて遊びたい盛り真っ最中なんだから。それでもこんなに家事が出来てケーキも美味しく作れるのは、シロちゃんがずっと健気に努力し続けたからでしょう?誰かに認められる事もないのに努力し続けるってすごく難しい事なのよ」

 

 

「んー、私の場合、親は最後まで、まぁあんな感じだったんですけど、姉はいつでも褒めてくれたから」

 

 

「そっか。シロちゃんと同じでステキなお姉さんなのね」

 

 

「はい。それはもう。」

 

 

 

 

 

 

 

だれかに花梨を褒められるのは嬉しい。

 

 

 

 

 

滅多に外に出ない花梨を知るのは

 

あの家に住む人たちと

 

病院の医師や看護師だけだから。